大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成2年(ラ)209号 決定 1990年7月12日

抗告人 小倉洋太

相手方 有限会社ダイセン

代表者代表取締役 大山明鎬

主文

原決定を取り消す。

相手方に対する原決定別紙物件目録記載の不動産にかかる売却はこれを許可しない。

理由

一  本件抗告の趣旨と理由は別紙記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  記録によれば、上記不動産競売事件について、原裁判所は、原決定別紙物件目録記載の各不動産を期間入札の方法により一括売却することとし、平成二年二月六日、最低売却価額(一括)を六九二万円、民事執行規則(以下「規則」という)一七三条一項、四九条、三九条による買受けの申出の保証の額を一三八万四〇〇〇円(一括)とそれぞれ定め、同裁判所書記官は、同年三月二三日付け売却実施命令にしたがい、同日、上記最低売却価額、買受けの申出の保証の額その他民事執行法(以下「法」という)一八八条、六四条四項、規則一七三条一項、四九条、三六条所定の事項を掲示した期間入札の公告をしたこと、これに対し、相手方および抗告人外一名が入札したこと、相手方の入札価額は九一三万円、提供した保証の額は一三八万〇〇〇〇円であり、抗告人の入札価額は八一一万円、提供した保証の額は一三八万四〇〇〇円であったこと(なお、外一名のそれは、それぞれ八〇一万円、一三八万四〇〇〇円であった。)、同年五月二二日の開札期日において、同裁判所執行官は、相手方を適法な最高価買受申出人と定め、所定の手続を経て同期日を終了させたこと、を認めることができる。

2  上記認定の事実に照らせば、相手方の入札は、その提供した保証の額が、原裁判所が定めた買受けの申出の保証の額一三八万四〇〇〇円に四〇〇〇円不足するものであるから、法一八八条、六六条、規則一七三条一項、四九条、三九条に違背する不適法な買受けの申出であるといわなければならない。したがって、執行官としては、上記開札期日において、相手方の入札を適法な入札から除外したうえ、抗告人の入札の適法性について審査し、これが適法と認められるときは抗告人を最高価買受申出人と定める等所要の手続を進めるべきであったにもかかわらず、相手方の入札を適法な入札に加え、相手方を最高価買受申出人と定めて同期日を終了させたのであるから、本件売却の手続には誤りがあり、かつ、その誤りは重大である(法一八八条、七一条七号)というべきである。

この点につき、提供された保証の不足額が僅少であるときは、その入札にかかる瑕疵は軽微というべきであり、不足額を追納させることも容易であるから、執行官の裁量において、これを適法な入札に加えることも許されるべきであるとする見解もないではないと思われるが、もともと、不動産の買受けの申出につき執行裁判所が定める額および方法による保証を提供することは、当該買受けの申出を適法ならしめるための重要な要件であって、入札および開札手続の性質に鑑みれば、適法な保証の提供がされたかどうかの判断は、執行官において、規則の定めに則り、形式的、画一的に行うことが相当というべきであり、提供された保証額の不足にかかる瑕疵が軽微といえるかどうか等につき執行官の裁量、判断に委ねて手続を執行させることは、他に入札者がなく客観的にみて手続の公正を害するおそれがないと認められるような特別の場合を除けば、相当とはなし難いといわなければならない。

しかして、本件においては、上記のとおり、相手方の他にも抗告人外一名の入札者があり、これらの者は、開札期日において、相手方の入札が適法な入札から除外されて手続が進められたならば、法一八八条、七一条二号ないし四号等の事由が認められない限り、それぞれ最高価買受申出人と定められ、次順位買受の申出をすることができた者と窺われるところであるから、相手方が提供した保証の不足額四〇〇〇円が僅少であって瑕疵が軽微といえるかどうかについて検討するまでもなく、執行官の裁量、判断において、相手方の上記瑕疵ある入札を適法な入札に加え、手続を進めることが許されると解すべき余地はないというほかはない。

三  よって、本件抗告は理由があり、相手方に対する原決定別紙物件目録記載の不動産の売却を許可した原決定は不当であるから、これを取り消し、同売却を許可しないこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 後藤文彦 裁判官 古川正孝 裁判官 川勝隆之)

別紙 抗告の趣旨

原決定を取り消し、有限会社ダイセンに対する売却を不許可とする裁判を求める。

抗告の理由

執行裁判所が本件土地建物について定めた買受申出保証金額は、一三八万四〇〇〇円であるところ最高買受人の提供した上記保証金は一三八万であったのに同裁判所は売却許可決定をした。よって原決定は違法がある。

別紙 売却許可決定<省略>

別紙 物件目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例